第1章 夫婦のルール

296/319
前へ
/1080ページ
次へ
がらがらと浴室の扉が開いて、もわりとした湯気とともに裸の女性たちが出てきた。 「だからね、紘央もよく考えて。自分が幸せになる方法考えて。とにかく今日は帰れないから」 「嫌だ、未散、俺」 「ごめん。ごめんなさい。とにかく切るよ、切るからね」 「未散、俺考えるから。おまえを好きだから」 「……ありがとう。いろいろごめんね。本当にもう話せないの、じゃあね」 最後は口早に言って、通話を切った。 湯の中に、じわじわと身体を沈めた。疲労の分子が分解されてゆくような心地よさ。 紘央がすがってくれるのは、嬉しかった。素直に胸の内を語ってくれたことも。 紘央と離れたいわけじゃない。ずっと一連托生で生きてきたのに――。 涙がこぼれ落ちて、湯の中へぼとぼとと落ちていった。 湯上がりの身体をケアしながらスマートフォンを開くと、深町さんからLINEが入っていた。 「フロントできみの分も受付しとくから、ゆっくりお風呂入っててね。上がったらまっすぐ部屋に来てね。そしたら、なんかうまいもの食べに行こう」 好き。 めまいがするほど、このひとのことも、大好き。 ああ。どうしてこの身体はひとつしかないんだろう。
/1080ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5385人が本棚に入れています
本棚に追加