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がらがらと浴室の扉が開いて、もわりとした湯気とともに裸の女性たちが出てきた。
「だからね、紘央もよく考えて。自分が幸せになる方法考えて。とにかく今日は帰れないから」
「嫌だ、未散、俺」
「ごめん。ごめんなさい。とにかく切るよ、切るからね」
「未散、俺考えるから。おまえを好きだから」
「……ありがとう。いろいろごめんね。本当にもう話せないの、じゃあね」
最後は口早に言って、通話を切った。
湯の中に、じわじわと身体を沈めた。疲労の分子が分解されてゆくような心地よさ。
紘央がすがってくれるのは、嬉しかった。素直に胸の内を語ってくれたことも。
紘央と離れたいわけじゃない。ずっと一連托生で生きてきたのに――。
涙がこぼれ落ちて、湯の中へぼとぼとと落ちていった。
湯上がりの身体をケアしながらスマートフォンを開くと、深町さんからLINEが入っていた。
「フロントできみの分も受付しとくから、ゆっくりお風呂入っててね。上がったらまっすぐ部屋に来てね。そしたら、なんかうまいもの食べに行こう」
好き。
めまいがするほど、このひとのことも、大好き。
ああ。どうしてこの身体はひとつしかないんだろう。
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