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「もう」
恥ずかしくて身体をくねらすと、深町さんは腕を伸ばしてしっかりとわたしを抱き寄せた。
「……彼のこと、考えたでしょ」
「えっ」
「してるとき、彼のことちらっと考えたでしょ」
「……」
「だから悔しさで、つい激しくなっちゃった」
ああ。
たまらない気持ちになって、わたしは深町さんの唇にキスをした。
すぐに後頭部が抱えられ、そのまま深いキスになる。
彼の指が、わたしの髪をさらさらと梳く。
できることなら、ずっとこうしていたい。
けれど、深町さんに溺れながらもわたしはやっぱり紘央のことを考えてしまう。
わたしの大切な分身は今、何をしているのだろう。
ちゃんと夕飯は食べただろうか。
わたしに呆れ果てているのだろうか。
「……ねえ」
息を整えながら、わたしは深町さんの目をのぞきこむ。
「彼のこと、忘れられなくてもいい?」
「それは……困るな」
深町さんは、本当に困ったように笑った。
「人生のほとんどを一緒にいたんだもんね。簡単じゃないとは思うけど……」
きっちりと両脚を絡ませ、抱きしめる腕に力をこめながら、深町さんは言った。
「でも必ず忘れさせてみせるから。俺のことだけ見てて、未散」
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