第1章 夫婦のルール

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「もう」 恥ずかしくて身体をくねらすと、深町さんは腕を伸ばしてしっかりとわたしを抱き寄せた。 「……彼のこと、考えたでしょ」 「えっ」 「してるとき、彼のことちらっと考えたでしょ」 「……」 「だから悔しさで、つい激しくなっちゃった」 ああ。 たまらない気持ちになって、わたしは深町さんの唇にキスをした。 すぐに後頭部が抱えられ、そのまま深いキスになる。 彼の指が、わたしの髪をさらさらと()く。 できることなら、ずっとこうしていたい。 けれど、深町さんに(おぼ)れながらもわたしはやっぱり紘央のことを考えてしまう。 わたしの大切な分身は今、何をしているのだろう。 ちゃんと夕飯は食べただろうか。 わたしに呆れ果てているのだろうか。 「……ねえ」 息を整えながら、わたしは深町さんの目をのぞきこむ。 「彼のこと、忘れられなくてもいい?」 「それは……困るな」 深町さんは、本当に困ったように笑った。 「人生のほとんどを一緒にいたんだもんね。簡単じゃないとは思うけど……」 きっちりと両脚を絡ませ、抱きしめる腕に力をこめながら、深町さんは言った。 「でも必ず忘れさせてみせるから。俺のことだけ見てて、未散」
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