第4章 土星のルール

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社内用のOutlookのアイコンを、未散(みちる)の顔にした。 と言っても写真ではなく、自分で描いた絵を写した画像だ。去年の誕生日に贈り、今も玄関に飾られている油彩画。 最大級の愛をこめて一心不乱に仕上げた一枚だ。画材屋としても愛妻家としても、これ以上アイコンにふさわしいものはない気がする。 そのために美月のアトリエを使わせてもらったというのが少し間抜けだけれど──。 「え、え、これもしかして蒔田(まきた)さんが描いたんですか!?」 アイコンを変更して最初の社内メールを送信したあと、隣りで作業していた津野(つの)(ともえ)が真っ先に気づいて声を上げた。 「ん? うん、まあ」 胸の奥がくすぐったくなって、俺は曖昧な返事をする。玄関のドアを開けて光を入れ、最高の写りを求めて何度も撮り直した渾身の一枚のくせに。 「えー、上手い! すごいすごい。さすが元美術部」 津野さんはわざわざアイコンを拡大して画面に目を凝らしている。さすがに照れくさい。全体が見たいというので、結局iPhoneのフォトフォルダを開いて見せた。
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