第4章 土星のルール

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でもまあ、おかげでこうして美月の近況を追うことができている。 卒業制作を教授から絶賛されたこと、来月から伯父の経営する絵画教室のアシスタントとして働くこと──高い金を出して美大で学んだ末の就職先がそれでいいのか謎だが、デザイン科以外の進路などその程度らしい──、そして新しい恋人。 いきなり嫌いになったわけでも、興味が尽きたわけでもない。 親に紹介できる相手と恋をして、幸せになってくれればいいと心から思う。本当に勝手だけれど。 「早いなあ。週末には桜が咲くなんてなあ」 年度末の激務の中なんとか区切りをつけた翔と、赤提灯(あかちょうちん)の店で飲んでいた。 串焼きの煙を吸いながらホッピーを飲んでいると、なんだかずいぶんオヤジになってしまった気がする。 「そうそう、今週末花見しねえ? 疲れてなければ」 去年のあの花見から1年か、と感慨に耽りながら誘ってみる。 土日は死んだように眠りたいと言われるかと思いきや、翔は寝癖に手をやりながら「いいねえ」と応じた。
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