善悪と、優先順位。

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 「別に疲れませんよ、あの程度のオペ。しかも、途中までしかしてませんし。ババア扱いですか?」  木南先生は、マスクの下で鼻息を漏らす。  「違いますよ!! そういう意味で言ったわけではありませんから。ただ、私が最後までやりたいが為の断り文句ですから。気を悪くさせてしまったならすみません」  木南先生に謝りながらも、執刀医を明け渡す気のない早瀬先生。  「…じゃあ、助手をしながら久々に早瀬先生のオペを見学させていただきます」  腸管破裂のオペとは違い、木南先生は無理矢理執刀を代わろうとはせず、あっさり引き下がった。『早瀬先生なら出来る』と分かっているからだろう。  「それはそれで緊張するんですけど」  「…緊張。嫌気が刺すの間違いじゃないですか?」  困り顔でやり辛そうにする早瀬先生に、木南先生がツッコミを入れる。  「それは木南先生の方でしょう」  「私は別に何とも」  そして、微妙に空気がおかしな感じになり始めた。救命のフェローも気まずい表情を浮かべるし。そういえば吉田先生も早瀬先生の名前を聞いた時に変なリアクションしていたし。  木南先生と早瀬先生の間には、何かがある。
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