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「やれるだけの事はしたじゃないですか、木南先生は。平沢先生から聞きました。蓮くんのご両親を説得したの、木南先生なんでしょう?」
「私がしたかったのは、説得じゃない。病気の治療がしたかった。病気を治す事が出来たなら、誰も悲しまずに済んだのにね」
木南先生の言葉がいちいち胸に突き刺さって、オレの涙腺を刺激する。木南先生の過去を知っているから、尚更痛い。
木南先生だってきっと、早瀬先生と同じで蓮くんに自分の息子を重ねて見ていたのだと思う。
だから、『仕方のない事』を割り切って考える事が出来ずに、胸を痛めているのだろう。
早瀬先生に蓮くんのオペを依頼されたあの日、木南先生が『不可能』とあんなに冷たく言い放ったのは、早瀬先生にと言うよりも、『助けたい』と願ってしまう自分に『無理だ』と言い聞かせたかったからかもしれない。
木南先生は息子さんの事件を『3年も前の事』と言っていたけれど、3年はそんなに昔ではない。この3年間、息子さんを想わなかった日などなかっただろうし、この仕事をしていれば幼い命が失われる現場に遭遇する事は珍しくはないから、その度に思い出しては心を抉られていたのかもしれない。
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