5.君の目は

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 けれど、七瀬さんが私を選ぶことなどない。  何故、叶わない恋などしてしまったのだろう。 「そんな目で見ないでくれ」 「え……」  無意識に私は七瀬さんを見つめていたようだ。  七瀬さんは困ったように視線を泳がせ、俯いた。 「僕は……最低な男だ。妻と別れられないのに君のことがとても気になっている」  今度こそ妄想だろうか。  だって、七瀬さんが私にこんな言葉を言うはずがない。そして、私は七瀬さんの言葉に最適な言葉で返答する術を持っていない。 「…………」 「ごめん……君が上司として僕を慕ってくれているのはわかってるつもりだ。だけどそんな目で見られたら……期待してしまう」  確かに今、七瀬さんのことを想って見つめていた。しかも体調が悪いので涙目になっている。  これは……意図せず色気というものが出てしまったのかもしれない。 「これでは由美のことは言えないな……」  ど、どうしたら。どう答えたら正解なのだ。    この暑さの中、冷や汗がこめかみを伝う。  教えて山崎葵――! 「……へ……」  すると数メートル先に歩いている山崎さんの姿が見えた。ついに現実に幻覚まで見えるようになったのかと目を擦る。 「どうし……」  鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている私を見て、七瀬さんはその視線の先を見た。     
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