4.乙女よ、胃袋を掴め

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4.乙女よ、胃袋を掴め

「痴話喧嘩ですか。いやはや若いっていいですねえ」  翌日、日曜日。  善は急げということで私と山崎さんは物件探しをしていた。 「痴話喧嘩とは、恋人同士がするものです。これはただの制裁ですので羨ましがる要素は微塵もありません」 「ハハハ。まあ彼女とは単なる仕事仲間です」  山崎さんの頬にくっきりはっきりとついた手形(しかも両頬)は隠せるはずもなく、物件を案内してくれた担当者にいらぬ誤解をされてしまった。 「同僚なんですか……あれ? でも一緒に住まれるんですよね?」 「いえ、住みません。私だけです」 「でも確か2DKをご希望では?」 「たまに仕事場を開放するだけですので」 「ああ、なるほど」  同居となると色々と手続きが面倒くさい。  現在、山崎さんは住所不定なのだ。非常に面倒くさい。  今日も私ひとりで物件を見に行くと行ったのに『俺も見たい』と言って聞かず、強引に着いてきたので、結局面倒くさい事になっている。 「こちらなんていかがですか? お勧めですよ」  本日3件目の物件は駅から徒歩10分の新築マンションだった。  分譲と賃貸が半々らしく、セキュリティもしっかりしていて外観も内装も気に入った。     
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