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けれど、七瀬さんが私を選ぶことなどない。
何故、叶わない恋などしてしまったのだろう。
「そんな目で見ないでくれ」
「え……」
無意識に私は七瀬さんを見つめていたようだ。
七瀬さんは困ったように視線を泳がせ、俯いた。
「僕は……最低な男だ。妻と別れられないのに君のことがとても気になっている」
今度こそ妄想だろうか。
だって、七瀬さんが私にこんな言葉を言うはずがない。そして、私は七瀬さんの言葉に最適な言葉で返答する術を持っていない。
「…………」
「ごめん……君が上司として僕を慕ってくれているのはわかってるつもりだ。だけどそんな目で見られたら……期待してしまう」
確かに今、七瀬さんのことを想って見つめていた。しかも体調が悪いので涙目になっている。
これは……意図せず色気というものが出てしまったのかもしれない。
「これでは由美のことは言えないな……」
ど、どうしたら。どう答えたら正解なのだ。
この暑さの中、冷や汗がこめかみを伝う。
教えて山崎葵――!
「……へ……」
すると数メートル先に歩いている山崎さんの姿が見えた。ついに現実に幻覚まで見えるようになったのかと目を擦る。
「どうし……」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている私を見て、七瀬さんはその視線の先を見た。
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