4.乙女よ、胃袋を掴め

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 それまでに少しくらいこの人を惑わせてみたい。その心の中に私という痕跡を残したい。  この人の優しさはそんな欲を掻き立てる。受け入れてくれるのではないか、と。 「あの……実はですね。今日お弁当を持参したことを忘れてお昼ご飯を購入してしまったので、よかったら食べてもらえませんか?」 「お弁当を?」  七瀬さんは「僕でいいのかな」と笑ってくれた。 「金曜日加藤さんが七瀬さんは最近お弁当ではなく外食だと言っていたのを思い出しまして」 「ああ、なるほど。そうだね、最近は朝から晩まで外食や出来合いで済ませてるよ」 「そ、そうなんですか……あの、まだ奥様とは……」 「彼女は……実家に戻ってるよ」 「失礼ですが私には解せません。七瀬さんが出て行くなら分かりますが、何故奥様が出て行かれるのでしょう。本来なら自分の非を認め、悔い改め、関係を修復しようとするものでは」  脳裏に由美さんの美しい笑顔が映し出された。  その笑顔の中に罪悪感のようなものは微塵も感じなかったことに憤りを感じる。 「うん、そうだね。君の言う通りだ。でも仕方ないんだよ。彼女はそういう人だから」  もしかしたらジェイも七瀬さんと同じように加藤さんのことを思っているのかもしれない。到底私には解せなかった。     
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