5.君の目は

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「このじゃがいものきんぴら最高に美味しいよ」  一瞬、まだ妄想の世界にいるのかと思ったが、これは現実だ。最近妄想と現実の区別が分からなくなってきているのは気のせいか。  異常な心拍数を落ち着かせるため、私はペットボトルの冷たいお茶を半分ほど一気に飲み干した。 「よかったです」  妄想の時とは比べ物にならないほど会話が出てこない。  折角2人きりなのだ。  もっと親密になれるような会話をしなくては。  そう、思えば思うほど脳内に言葉が浮かんでは消え、口から出てこない。 「でも200円なんかで良かったのかな。この容器代にしかならないんじゃないか?」 「充分です」 「そうか。ありがとう」 「いえ。礼には及びません」  あああ!  どうして私はこうなのだ。髪型を変えて、メイクもして多少可愛くなれたとしても、中身がこれではどうしようもないではないか。 「でもやっぱりお礼はしたいな」 「いえ、本当に……大したことはしていませんので」  しまった。ここは素直に受けておくべきだったのでは……。ああ反省しか出来ない。 「市川さんは謙虚だね。今まで周りにいなかったタイプだよ」     
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