5.君の目は

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 ということは今まで見返りを求めてくる女性しかいなかったのだろうか。 「そ、そんなことないですよ。私にだって欲はあります」 「そうなの? 例えば?」 「……出世欲、ですかね」  なんて色気のない返答なのだ。  脳内でハニワ顔の山崎さんが私を見ているのを想像して七瀬さんへ聞こえないように舌打ちした。 「ハハ! それなら問題ないな」 「き、恐縮です」 「市川さんの年齢だと結婚願望が強い子ばかりだと思ってたよ」  はい。あります、結婚願望。 「でもそれも問題ないと思う。こんなに美味しい料理が作れるんだから」 「老後は小料理屋でも営もうかと計画はしております」 「それはいいね。入り浸るだろうな」  出来ればお客様ではなく、一緒に経営しましょう。なんて言えない。  昼休みが終わる5分前。執務室前の廊下がにわかに騒がしくなったので私は弁当箱をしまい、歯磨きセットを持って席を立った。 「あれ。七瀬さんここで食べてたんですか」  外から帰ってきた加藤さんがデスクに座る七瀬さんを見て言った。その後ろから津田さんとジェイが続けて入ってくる。 「歯磨きにいってまいります」 「どうぞご自由に」  3人と入れ違いに廊下へ出ると「今週からお弁当再開したんだ」という七瀬さんの声が背後で聞こえた。     
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