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「いやあ、急にコンサルタントが変更になったと聞いた時はどうなることかと思いましたよ。でも前の山崎さんに負けず劣らず優秀な方のようで安心しました。これからよろしくお願いしますね」
そう言ったのはクライアントの田島常務だ。身につけたスーツはデザイン性が高い。
と、いうのもクライアントは大手アパレルメーカーであった。
ブランド物の衣服にあまり興味はない私でも聞いたことのある会社だ。
「ご安心ください」
私がにっこりと常務へ微笑みかけると、彼は私の頭の先から爪の先まで視線を動かした。
「優秀な方ですが……少々面白味には欠けますね」
「はい?」
「失礼。仕事柄衣服に目がいってしまうんです」
「ああ……なるほど。私はデザインよりもスタンダード。清潔感重視ですので」
「好感は持てますよ。仕事相手としては」
褒められているのか貶されているのかどちらとも取れない言葉に私は閉口した。
……今度会うときはスカーフでも巻いてこよう。
この仕事はクライアントとの信頼関係も必要不可欠だ。つまり、コミュニケーション能力も必要とされる。
私が唯一苦手な分野だった。
「疲れません?」
オフィスに帰ると、加藤さんがパソコン画面を見ながら話しかけてきた。
「? 特には」
加藤さんの言葉の意図は仕事で疲労しているかいないかの話だと思った。
「いつもそんな感じなんですか?」
「そんな感じ、とは?」
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