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好きな人――いたんだ。
何故か胸の奥がざわついた。
「……わかりました。やりましょう」
私は息を大きく吸い込み、それからゆっくりと吐いた。それから意を決して山崎さんの目に視線を合わせた。
七瀬さん、好き。
呪文のように頭の中で繰り返しながら見つめる。
その瞳の中には当然私の姿が映っていた。
その姿は、見つめる……というよりも力が入りすぎていて睨んでいるように見える。どうしてこうなる私。
「……なんで睨んでるんだよ」
「仕方がないじゃないですか。異性を気持ちを込めて見つめるなんて未経験なんですから。お手本見せてくださいよ」
山崎さんは、フッ……と息を吐き、それからゆっくりと私の目を覗き込むようにして見つめてきた。その目が私がこれまで見てきた彼のものとは別人のように優しくて、切なくて……思わず狼狽える。
「…………っ!」
この人は……こんなにも優しい目で好きな人を見るんだ。
しかも、ただ見つめられているだけなのにまるで愛の言葉でも囁かれているような錯覚を起こし、耐えきれず視線を外してしまった。
「も、もういいです」
「降参かよ」
「く……卑怯ですよ……」
「何がだよ。どうだった?」
ようやく解放された腕に張り詰めていた息を吐いた。
「何がですか」
「色気だよ。感じた?」
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