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確かに、私が思うような行動はしていないのに妙な色気を感じたことは否めない。まだ心臓がドキドキと音を鳴らしている。
「……流石ですね。遊んでいるだけあります。あんな目で見られたら女性は舞い上がってしまうと思います。いやはや天晴れでした」
「感心している場合か。おまえがやるんだよ、七瀬さんに」
「!?」
「なんだその鳩が豆鉄砲食らったような顔は。当たり前だろ、おまえがやらなくて誰がやる。はい、鏡持ってイメージトレーニングしてきてー」
背中を押され、私は自室へとフラフラと入った。
山崎さんにあんな目をさせる人がいるとは……。
「……ちょっとびっくりしただけ……」
一体、どんな女なのだろう。
「ハッ……! こ、これが意外性……」
以前、山崎さんが言った言葉を身をもって知ったのであった。
部屋を占拠していたダンボールがすっかり片付いた頃、蝉の鳴き声が聞こえ始める季節へと移ろいでいた。
ここ数日、暑いから外に出たくないと全員昼食を執務室で摂ることが多くなっていた為、私は皆よりも朝15分ほど早く出社し、弁当を七瀬さんのデスクに置いていた。
「わ。市川さんのお弁当美味しそうですね」
加藤さんが隣から弁当箱を覗き込んで来た。
指をくわえてじっと見てくるので「食べますか?」と聞くと「味見させてください」と言ってきた。
「…………」
加藤さんは唐揚げを無言で咀嚼している。
「いかがですか?」
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