1.イケメン拾いました

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 さっきまでの恐怖心は消え去り、頭の中に浮かんだのは救急車を呼ぶことだった。 「待ってください。今、救急車を呼びますから」 「…………な」 「え?」  微かに聞こえた声に耳を傾ける。  彼は雨音に消え入りそうな声で「……呼ぶな」と言っていた。 「このままだと肺炎を起こしかねません。呼びますよ」  はっきりと言うと彼は力なく首を横へ振った。 「……保険証……もってない……」 「え……」  保険証がない。  携帯していない、そう言う意味ならば「後から持っていけば返金されますよ」と答えた。 「違う……保険に入ってないんだ……まだ……金もない……」  私は文字通りフリーズし、かろうじて肩に挟んでいた傘を落とした。  はっきりいって自分の保身を図るなら、放っておくのが一番だ。  だが、そんな非人道的なことを私が出来るはずもなかった。  そう、私の取り柄は“真面目”なのだから。 「妙なことをしないと誓うなら、うちに運びます」  初めて言ったセリフだった。  今まで私に妙な気を起こす人などいなかったからだ。  私の言葉にピクリと反応した彼は頷いた。 「お、重い……」  自立歩行をしない人間を運ぶのは容易ではなかった。     
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