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イケメンは自分のおでこに手を当てると納得したのか頷いた。
「私これから仕事なんです。スーツはそこに干してあります。体調が良くなったら鍵をかけて出て行ってください。あ、鍵はドアポストへお願いしますね」
そう言ってスペアキーをキーホルダーから外しローテーブルの上に置くと、支度をすべく洗面所へと駆け込んだ。
「…………」
緊張する。
心臓がバクバクと鳴らす音が頭の中でも響き渡る。
とにかく落ち着こう。そう思い、冷たい水で顔を洗った。
それから大急ぎで化粧をして、脱衣所の扉を締めてスーツに着替えた。
「冷蔵庫にサラダがありますから。あと冷凍庫におかずもあるので温めて食べていただいても構いません。では!」
「おい……」
イケメンに呼びかけられたが一刻も早くこの場から立ち去りたかった私は鞄を持って家から飛び出した。
玄関のドアに施錠をし、大きく息を吸い込んだ。
「はああ……」
あと数分、同じ空間にいたら窒息していたかもしれない。
「おはようございます」
オフィスに着く頃には完全に落ち着きを取り戻していた。
頭の中の殆どを占めていたイケメンの顔も今日の仕事の段取りを考えているうちに、いつしか消え失せていた。
「おはよう、莉緒」
コーヒーを片手に挨拶を返してくれたのはジェイだった。
「莉緒もコーヒー飲む?」
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