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「七瀬さん、聞きました。お辛いでしょう」
深夜10時。
すでにこの部屋には他のチームメンバーはいない。いるのは私と七瀬さんだけだ。
七瀬さんは都会の夜を窓から眺めていた視線をゆっくりと私へ移し、苦笑した。
外は雨。
この人の心の中にも冷たい雨が降り続いているのだろう。
「……聞いたのか。恥ずかしい話だよ」
私は彼の傘になりたい。
「恥ずかしくなんてありません。恥ずべきなのは奥さんと山崎葵です」
「……君は優しいね」
七瀬さんは窓から離れ、私のすぐ傍まで歩み寄ってきた。
心臓がありえない速さで脈を打つ。
「君のような真面目な子なら、こんな風に裏切られなかったのかもしれない。僕は選択を誤った」
「七瀬さん……」
そっと私の頬に添えられた大きな手。
「どうして君が泣くの」
「あ……え、私……」
気づけば私は静かに涙を流していた。
その雫を七瀬さんの長い指が優しく拭う。
「傷ついた七瀬さんを見ていられないんです」
「バカだな……君は……」
「私では貴方の心の雨を遮る傘にはなれないでしょうか」
「不思議だな。さっきまで僕の心は暗雲が立ち込めていたのに、今はとても晴れやかで虹がかかっているようだ」
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