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頬にあった指が顎先に触れ、そのまま上を向かされた。
ぶつかる視線。
2人の瞳には、もうお互いの姿しか映っていなかった。
「七瀬さん……」
「蓮。と呼んでくれないか」
「……蓮さん」
「莉緒……」
お父さん、お母さん。莉緒はついに大人の階段を登ります――
「何やってんですか」
デスクに突っ伏し、悶絶している私へ横から加藤さんの冷たい声が浴びせられた。
しまった。またうっかり妄想してしまった。
「……いえ、昨日少しばかり眠れなかったので、居眠りです。失礼しました」
コホン、と咳払いをひとつして、何事も無かったかのようにパソコンのキーボードを叩き始めた。
仕事が一段落ついたのは、奇しくも妄想した時と同じ深夜10時だった。
だが、実際は加藤さん以外は全員残っていたし、あのような出来事が起こるはずもなく本日の業務を終えた。
ビルから出ると、未だに雨が降り続いていた。
傘を差したところで「市川さん」と背後から七瀬さんに呼び止められた。
「お疲れ様です」
先程の妄想のせいでまともに顔を見ることが出来ず、傘で顔を隠した。
声までいいとか、もはや反則。
これだけで、ご飯3杯余裕です。
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