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またも妄想してしまっていた。しかも、どこからが妄想だったのか分からないくらい自然に入り込んでしまっていた。いけない。妄想力がパワーアップしてきている。
せっかく現実に七瀬さんがいたというのになんて勿体無い。
「い、いえ! あの、楽しみにしています」
「うん。お疲れ様、また明日」と極上の笑顔で片手を上げる七瀬さんの後ろ姿を、走り出した電車から見えなくなるまで見送る。
その笑顔には翳りなど一切ない。奥さんが自分の部下と不倫関係にあった事など、とてもうかがい知れない。
けれど、人知れず泣いているかもしれない。
そう思うと堪らなく切なくなり、私が彼に出来ることはプロジェクトを成功させることだと改めて決意を新たにした。
この日も近所のコンビニでミネラルウォーターと、サラダを買った。
仕事をして、コンビニに寄り、家に帰る。
帰ったら眠る前に以前買ったまま読んでいない恋愛漫画でも読むか。と思案しながら玄関のドアを開けて目を見開いた。
視線の先に男物の革靴。
それを見た途端に、今の今まで忘れていた昨夜の出来事がフラッシュバックした。
「え……なんで……」
慌ててドアポストを確認するも、あるはずのスペアキーがない。
そのまま放心していると、ダイニングへ続くドアが開く音が背後で聞こえ、振り向いた。
「おかえり。遅かったな」
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