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「なんですか」
山崎さんは私の両肩に手を乗せるとくるりと後ろを向かせた。
「今日から髪は下ろしていけ」
そう言って髪ゴムをスルリと抜かれてしまった。
「ちょ……やめてください」
「おまえ今時珍しいくらい綺麗な髪なんだから勿体ないぞ」
背中を見せていてよかった。
こういうことで褒められ慣れていない私の顔は真っ赤に違いない。たとえ、軽蔑している相手といえども男性だ。しかも最高ランクのイケメンに緊張するなというのが無理な話だ。
「こ、これでは清潔感が損なわれます」
「大丈夫。俺を信じろ」
「……う……わかりました」
私は変わると決めたのだ。
悔しいが山崎さんが女性の扱いに長けている人間だということは誰が見てもわかる。
私とは恋愛の偏差値が違うことは明白。
そんな彼が信じろというのなら信じようじゃないか。
だが、季節は梅雨。
湿気に張り付く毛髪が酷く鬱陶しい。
大体、髪を下ろしたからといって何が変わるというのか。
早くも半信半疑となっていた私だったが、オフィスにつくとジェイに「あれ、今日は髪下ろしてるんだね。綺麗な黒髪だ。大和撫子ってやつだね!」と褒められ、あろうことか撫でられた。
「た、たまには気分を変えてみようかと」
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