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思わず声を上ずらせるとジェイは「うん、いいと思うよ」と笑顔で頷いてくれた。
「雨なのに広がらないなんてズルい」
今度は加藤さんが自分の髪を撫でつけながら頬を膨らませた。
どうやら山崎さんのアドバイスは間違っていなかったらしい。
その後やってきた津田さんも綺麗だと褒めてくれた。そうなると嫌が応にも期待が高まる。
「市川さん」
「はい!」
来た。
私は全身を緊張させて七瀬さんの言葉を待った。
だが、七瀬さんは私のデスクに歩み寄り、書類を置いた。
「これ、確認しておいてくれるかな」
「え、あ、はい。了解しました」
拍子抜け、とはこの事か。
1番褒めてもらいたい人には何も言われなかった。
やはり髪を下ろしただけでは七瀬さんレベルの人には効果がないのだ。と少し寂しい気持ちになったところで自分のデスクに戻ろうとした七瀬さんが「あ」と短く声を出して振り向いた。
「いつもとなんか違うと思ったら、そうか。髪を下ろしているんだね」
と微笑んだ。
油断していた。
思わず緩んでしまう頬を唇を噛んで必死に隠そうと努力する。
「似合ってるよ」
だが、その言葉に耐えきれず「コピーに行ってまいります!」と叫んで席から立ち上がり、まっすぐに化粧室へ直行した。
似合ってるよ。似合ってるよ。似合ってるよ……
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