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白昼夢でも見ているような感覚に思わず呟くと七瀬さんはふわりと笑った。
「不都合であれば残念ですが他を当たります」
七瀬さんの言葉に現実に引き戻された。
「いえ! 是非やらせてください!」
普段の1.5倍ほどの声量が出てしまい、慌てて頭を何度も下げた。
「うちからいなくなるのは正直痛いけど、こんなチャンスは滅多にないからな。今日は引き継ぎだけ終わらせておいて」
「林さん、申し訳ないです」
「林、悪いな。助かった」
「貸しひとつ出来たな。今度奢れよ」
林さんは冗談交じりにそう言ってから私の肩を叩いた。
この日は新たに配属されたアナリストにこれまでの業務の引き継ぎをすることに追われた。
日付がまたがる時間に帰宅することになったが、明日からのことを思うと驚くほど身体が軽い。
「……七瀬さん」
七瀬さんはまさに私の理想の男性だった。
容姿はもちろん、温和な立ち振る舞い、そして何より知性が滲み出ていた。
私は明かりを消したベッドに寝転びながら、脳裏に何度も七瀬さんの姿を映し、胸を高鳴らせながら目を閉じた。
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