1.イケメン拾いました

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「市川さん、君は噂以上に優秀な人だ」  移動初日の業務を終えた執務室の窓辺には真っ赤な夕陽が照らしている。 「それは七瀬さんのおかげです」  オレンジ色の光に照らされた七瀬さんが不思議そうに首を傾げる。 「僕の?」 「はい……七瀬さんの為なら、いつもの倍以上頑張れるので」 「それは――」  私の視界に影が落ちる。  それは七瀬さんが目の前に向かい合って立っているのだと気づいた瞬間、鼻腔に爽やかなシトラスのような香りが漂った。 「期待してもいいのかな?」  耳元で囁かれ、私の頬は夕陽のオレンジに負けない程、紅く染まった。 「どういう……意味でしょうか」 「君を部下ではなく、ひとりの女性として見ても構わないか?」  勿論ですー!  パチリ。  目を開けるとそこは薄暗い自室の天井だった。 「……妄想してる場合じゃない。眠らないと……Sleep……Paint……」  バクバクと音を立てる心臓をなんとか宥めるべく、ひとり英語しりとりを5文字縛りでやっているうちに、いつの間にか眠りに落ちた。  翌日、いつもより30分早く家を出ると東京本社へ向かった。  ここへ訪れるのは入社する時の面接と、入社式以来である。     
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