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ビルの壁面は全て硝子で施され、空をそのまま映すほどに磨かれていた。残念なことに曇り空だが。
ひとつ深呼吸をしてからエントランスへ足を踏み入れた。
その先は駅の改札口のようになっていて、IDカードをタッチしなければ中には入れないようになっている。
そこを通り抜け、エレベーターホールに向かうと「市川さん」と背後から声を掛けられた。
振り向き、姿を見た途端に再び鼓動が早鐘を打ち始めたが、それを悟られないように努めて冷静に会釈をした。
「七瀬さん。おはようございます」
「おはようございます。今日からよろしくお願いします」
「こちらこそ」
そんな挨拶を交わし、12階へと移動した。
「昨日渡した資料は読んだかな」
「勿論です。前任のコンサルタントは優秀な方ですね。システムに無駄がない。退職されたと聞きましたが実に勿体無いです」
「……そうだね」
何故か七瀬さんは歯切れの悪い言い方をした。
「おはよう。皆揃ってるな」
プロジェクトチームが常駐している執務室に入ると、その場にいた3人が一斉にこちらを見た。
「昨日話した市川莉緒さんだ」
「市川です。若輩者ですが、皆さんよろしくお願いします」
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