1.イケメン拾いました

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1.イケメン拾いました

莉緒(りお)。君の魅力は僕だけが知っていればいい。他の男には知られたくない」  掠れた声を切なげに囁く彼の肩越しに見えるのは白亜の建物と薔薇の(その)。まるでお伽話の世界に迷い込んでしまったかのような景色に息を呑む。  一瞬、何がどうなっているのかと混乱するも、ああこの人は私の愛する人なのだと理解した。ならば私は全力でその愛に応えよう。 「本当の私を見せるのは貴方だけ」  私の言葉に彼は抱きしめる腕に力を込めた。 「莉緒……君は……」  そう言って抱擁を解くと、じっと私の瞳を覗き込んだ。その姿はまさに私が思い描く理想の王子様、そのものだった。  この人になら全てを委ねてもいい。早鐘を打つ鼓動に合わせ、その先の展開に期待をしながらゆっくりと瞳を閉じる。  だが、優しく触れるはずだったその唇からは、予想外の言葉が飛び出した。 「妄想の中でしか自分を変えられない女だな。だからモテないんだ。いいか、おまえみたいなプライドも理想も高い、その癖なんにも努力しないやつに理想の王子様なんて現れるか!」  驚いて思わず目を開けると、突然豹変した彼の姿はそれまで私に甘い言葉を囁いていた彼とは別人だった。  ガラガラと音を立ててお伽話の世界は崩れ去り、現れたのは私が暮らすマンションの部屋。 「な、なんなんですか!」 「俺がコンサルティングしてやるよ。おまえの問題点を分析して必ず克服させてやる。俺に任せてくれたら理想の相手との結婚も夢じゃない」  理想の相手との結婚。過去幾度となく妄想してきた事が、この男に任せたら現実に?  私はゴクリと生唾を飲んだ。 「条件はなんですか? タダではないでしょう?」  男はニヤリと笑みを浮かべた。 「俺に衣食住を提供しろ」
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