5.君の目は

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5.君の目は

 梅雨の明けた気持ちの良い朝。  私は2つの弁当箱をぶら下げてオフィスへ向かう。  午前中の仕事を終え迎えたランチタイム。  チームのうち3人は外食組で、この執務室には七瀬さんと私の2人きりだ。 「このじゃがいものきんぴら最高に美味しいよ」 「ありがとうございます。私も好きなんです」 「僕も好きだよ」  好き、という単語に頬が熱くなる。 「リクエストがあればお答えしますよ」 「リクエスト……そうだな」  七瀬さんはデスクから立ち上がると、加藤さんのデスクに弁当箱を置いた。 「こうして隣で食べるともっと美味しく感じるかもしれない」 「そ、そうでしょうか」  身体の右半身が異様に緊張して味なんてしない。そんな私を嬉しそうに見つめながら七瀬さんは箸を進める。 「夕食も君が作ったものが食べられたら幸せだな」 「ゆ、夕食……ですか」  是非、我が家へ招待しますと言いたいが、うちには山崎葵がいる。 「駄目かな」 「いえ、調整します」  少しの間外に追い出せばなんとか……。 「出来れば朝食も」 「ちょ、朝食!?」  それは夕食を食べたあと、朝食の時間まで七瀬さんと――。  いやいや、流石に山崎葵が帰ってきてしまう。 「駄目かな」 「え、ええとですね……その……」  箸を持つ手をそっと握られた。 「これだけ気にならせておいて家に男がいるなんてことないよね?」  ごめんなさい、います。  しかも、あなたの奥様の浮気相手です。  なんて言えるかー!
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