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「一つ気になる事があるんですが、範真さん」
「どうしました?」
「彼、好きな小説のジャンルはミステリーとなっています」
「そうですね」
「星新一はミステリーではない……と思うのですが」
「確かに」
「なぜ彼は星新一を選んだのでしょうか。最近じゃ、五分間ミステリー何てのもありますし、ミステリーでも十分に得点は期待できたと思うのですが……」
「確かに。五分間ミステリー的な作品集は収録数も多く、一見戦えるように見えますね」
「と、言いますと?」
「やはり一本当たり五分かかるというのは、それなりに頭を使うという事なんです。それに、星新一の場合は一作品読むのに一分もかからない場合が多々ある。この差は大きいです」
「なるほど。ん? 審査員席の方が騒がしいですね」
「何かあったんでしょうか?」
「……はい。たった今情報が入ってきました」
「何ですか?」
「尾関選手が持ち込んだ文庫本ですが、何と借りものだそうです」
「か、借り物ですか? 人から借りた本を風呂に? ちょっと、考えられないな……」
「水分を吸ってふにゃふにゃになっちゃいますしね。ああ、やはり芸術点に大きなペナルティが入ってしまいました」
「当然ですね。万が一、水没させた場合は、恐らく失格と出場停止もあり得るんじゃないかな」
「範真さん怒ってらっしゃいますね」
「もちろんです。フロドク選手権はあくまで自分の本を使うべきです。それは、ルールどうこう言う前に、人としてのマナーですよ」
「確かに。おっしゃる通りです。あ、続報ですね」
「まだ何か?」
「どうやらあの本、好きな子から借りたみたいですね」
「好きな子から? どういう神経しているんでしょうね」
「恐らく、早く読んでしまってその事の接触の機会を増やしたいって事ではないでしょうか」
「あー、じゃあ星新一が好きとか言っちゃってるんでしょうね。でも、貸した本が返ってきたときに、皴皴になってたら、私ならパンチですけどねぇ」
「確かに、激怒は不可避ですね。ちなみにですが、SFが好きと言ってしまっている可能性も考えられます」
「ぜひそれで墓穴を掘って頂きたい」
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