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「思ったほど読む速度が上がりませんね、範真さん」
「先ほどから様子を見ていましたけれど、どうやら趣味が合わないようですよ」
「趣味が合わない?」
「はい、ですから、少し読んでは溜息を繰り替えしているんですね」
「なぜ、読み続けているのでしょうか?」
「好きな子の為でしょうね。共通の話題を手に入れるために、頑張っているんですよこれは」
「確かに、いやいや感がにじみ出ています」
「これは良くないですよ」
「良くない?」
「フロドクはあくまで本人に読書をしたいという意欲が無いといけません。読みたくも無いものをいやいや読んでいるという気配が出てしまっては、印象が悪くなります」
「どこに影響が出ますでしょうか?」
「健康点ですね」
「では影響は少ない?」
「確かにそうですが、やはりペナルティは無いに越したことはありませんね」
「なるほど。おっと、いよいよ限界のようです」
「本を閉じましたね。新潮文庫なのに栞も挟まないなんて……」
「読む気を無くしたのでしょうか」
「そうかもしれません。こういう所、審査員は見ていますよ」
「と、言いますと?」
「戦意喪失とみなされ、芸術点にペナルティが入ってしまう場合があります」
「今回はどうでしょうか?」
「まだわかりませんね。そこそこ時間も過ぎていますし、風呂からあがろうと思っても不思議ではない場面です」
「さあ、尾関選手、今立ち上がりました。そして、片足が浴槽の外に出た。そしてもう一方の足も……今出ました。さあ、これでフィニッシュです」
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