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普段の敦子なら、食事の前にデザートを食べるなどしない。子どもに何度も注意してきたことだったから、子どもの手本であろうとしてきた敦子からは遠い行為だった。
そんな些細な背徳感に、沈んでいた心が浮上した。
そうだ、食べてしまおう。
どうせ、夫は今ごろ雪見酒としゃれ込んでいる。露天風呂に入りながら、飲めるらしい。
酒を飲まない敦子には、何が楽しいのか理解できなかったが、夫は随分楽しみにしていた。
そこで、以前テレビでタレントが言っていたことを思い出した。その若い女性タレントは、風呂に何でも持ち込み、風呂に浸かりながらアイスを食べるのが至福だと言っていた。
なんてはしたなくて不衛生なのだろうと敦子は眉を顰めて聞き流していたが、なぜか今やってみようかという気持ちが湧き出てくる。
風呂を沸かし、着替えを洗面所に持ち込む。
それから、キッチンへと戻った。ためらう敦子を励ますように、ぶうんと冷蔵庫が声を上げた。
一つきりのアイスクリーム。これを食べてしまったら、アイスはなくなり、今夜戻って来た子どもたちをがっかりさせてしまうかもしれない。
子どもを落胆させる行為を自分がとろうとしていることが、敦子には信じられなかった。
それに、風呂場で食べ物を食べるなんて、敦子の母が聞いたら、さぞ驚いて非難することだろう。夫は信じないに違いない。
でも、そんなことをしてみたい。
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