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「お母さんへのお土産、何色がいいと思うって、俺に聞かれても知らねーし」
「お母さん、ピンクでいいよね。私が選んでおいたから」
「……ええ、何でもいいわよ」
土産なんて買ってくるような殊勝な人だったかしら。
夫なりに、敦子を置いて出かけることに多少の罪悪感は、覚えているのかもしれない。
アイスで冷やされていた内臓が、風呂で温まった体と同じ温度になっていることに、敦子は気づいた。
ようやくキッチンへ入り、アイスのカップとスプーンを片づけようとすると、長女が目ざとく指摘する。
「お母さん、アイス食べたの? 珍しい」
「え? 風呂に入ってたんじゃないの? どこで食べてたの?」
「……ええと」
「まさか、風呂で?」
「お母さんがそんなことするはずないでしょ」
無垢な四つの瞳は、敦子がするはずがないと信じきっている。
敦子は、何と答えていいものか分からず、ただ肩を竦めたが、子ども達は目を輝かせた。
「えー、何それ楽しそう」
「おいしかった?」
「どうかしら……またやりたいとは、思わないわ」
「そんなもんか」
「俺もやりたい」
なぜか嬉しそうな子ども達の声をくすぐったく感じながら、敦子はカップを捨てて、スプーンを洗った。
「そうだ。もうアイスないの。ごめんなさい」
思ったとおり、非難の声が上がる。
けれど。
「でも、お母さんが謝る必要ないし」
「そうそう、食べたかったら自分で買ってくるし」
「え……?」
「いつも買ってきてくれて、感謝してます」
「就職したら、家にお金入れるし。あ、俺はこっちで就職するつもりだから、よろしくです」
殊勝に頭を下げた子ども達に、戸惑いを隠せない。
「……あなたたち、野菜も食べなさい」
「えー、もう腹いっぱい」
冷蔵庫から、他の料理も取り出した敦子は、子ども達と一緒にテーブルについた。冷めたコロッケを、敦子も摘む。
――なかなか上手にできた。
温まった体は、その晩冷えることはなかった。
<終>
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