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Ritsu Tanaka
冬のスーパーマーケットは寒い。支給された蛍光オレンジのジャンパーを羽織っていても、全く意味がない。
ジュンは腕時計で十七時になったことを確認してから、精肉コーナーで売れ残った合い挽きミンチのパック詰めに半額シールを張り始めた。売れ残りの肉は茶色みを帯びている。
作業の合間にかじかんだ手を擦り合わせる。肉のショーケースが終わったら、次は隣の鮮魚コーナーだ。
「寒いよね」
突然店内でかかっているBGMに、女性の声が被さった。次いで肩をぽんと叩かれたので首を捩じると、赤いマニュキアを塗った爪が視界に入った。
「松田さん」
肩越しに、自分より背の低い先輩店員をちらりと見る。
「律くん、一緒に帰らない?」
松田がすっと目を細めて笑った。ジュンの右肩には手が置かれたままだ。彼女の口紅と爪の色が全く同じだ、とぼんやり考えた。
「俺、まだ仕事が残ってて」
ジュンは眉を寄せて曖昧に笑う。こういうシーンではちょっと申し訳なさそうにするのが良いらしい、と最近学んだ。
「そうなんだ、残念。じゃ、お先に」
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