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和木のヤニで汚れた指先が、ラップに包まれた肉を押しつぶすようにシールを載せていく。大雑把な動きだがスピードは速い。
蛍光灯で照らされショーケース内は、角に溜まった埃さえ鮮明に浮き上がらせている。
「彼女美人じゃん。付き合っちゃえよ」
「無理ですよ。あのひと、俺よりだいぶ年上だし」
彼女が以前、「高校を出てこの店で五年働いている」と言っていたことを覚えている。
「年上は趣味じゃない?」
意外そうに声のトーンを上げ、和木が片眉を上げた。
「俺十七ですよ。淫行条例に違反する」
ジュンにとっては、言うまでもないような当たり前のことだった。
以前住んでいた地区では、十八歳以上の「大人」が、十八歳未満の「子供」と性交渉をすることに厳しい条例が敷かれていた。ここでは――バトー地区では罰則がないのだろうか。
「おまえそれ、本気で言ってる?」
大きな口をさらに大きく開けて、和木が豪快に笑った。
「やっぱりおまえ、どこかズレてるよな。あの時は、めちゃくちゃお前のこと見直したけど」
和木がジュンの頭をポンポンと軽く叩き、魚売り場へと移動する。ジュンの仕事を肩代わりしてくれるらしい。
「あ、和木さん。ありがとうございます」
「いいよいいよ。田中は未成年だからな。残業させたらお前の母ちゃんに怒られちまうな」
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