epilogue:RITSU

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 声をかけると、子供がふっくらとした顔を上げ、笑いかけてくる。可愛いと思った。 大きな目、黒くて長い睫毛、ふわっとした唇。かわいいエッセンスが凝縮されたような顔立ちだと思った。  タクシーは我が家から少し離れた場所に停車した。そうするように律が頼んだ。心の準備をするために子供と歩きたいと思った。  子供と手を繋ぎ、空いた手で折り畳まれたベビーカーと紙袋を持った。 畑が並ぶ細い道を、ゆっくり歩く。とことこと小股で歩く彼と歩幅を合わせるのは、ちょっと緊張する。バランスを崩したらすぐに転んでしまいそうだ。すでにオールインワンのフリースは、土埃で汚れていた。  小さいけど温かい手を握りしめ、律は九条が待つ家まで歩を進めた。  畑を囲むフェンスをぐるりと回って、家の門まで辿り着く。門扉を開けたとたん、子供が律の手を振り払って、走り出した。 「あ、待って!」  ベビーカーを投げ出して、律は男児を追いかけた。彼は家ではなく、畑のほうへと駆けていく。  ――この子も畑が好きなのかな。  なんだか嬉しくなった。  不意に子供が立ち止まった。律も彼の隣に立った。 前方に広がる畑は、一か月前と違っていた。まっすぐに畝立てされた畑は、見ていて気持ちが良くなる。     
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