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Ritsu Kujo(小野田視点)
私が彼らと会ったのは、あと九時間で新年を迎える、という浮足立った年の瀬だった。場所はバトー地区唯一の商店街。そこは年末だけ歳末セールで賑わう場所だった。
人の波にのまれながらも、すれ違いざまに見えた彼らの顔にピンときた。私は反射的に、細い背中のほうに声をかけていた。
「田中くん!」
大きな声で呼んだつもりだったが、彼は振り向いてはくれなかった。再度呼んでみたが、やっぱり立ち止まらない。人波に乗った彼の背中は遠のくばかりだ。
私は歩いていた列から離れ、田中くんたちを追いかけた。人波がとぎれとぎれになったところで、十メートルほど先にいる彼らに声をかけた。今度は「九条さん」と。
そうしたら、ふたりが同時にこちらを振り返った。
「小野田さん」
田中くんの声が嬉しそうだったので、内心私は胸を撫でおろした。いきなり彼をクビにしてしまったのだ。そのことを根に持たれてはいないようだ。
田中くんの隣にいるのは、小さい男の子を肩車している九条さんだった。
彼らは同時に笑い、私に向かって会釈をしてくれた。三人は列から外れ、私のことを待っていてくれた。急いで彼らの元に走った。
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