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「久しぶりだね。――ちゃんと会えたんだね」
私は九条さんに向かって微笑んだ。自分のことのように嬉しかったのだ。
九条さんと最後に会ったのは、三年前だ。スーパーまで来て田中くんのことを訊きに来て以来。田中くんとは、彼がスーパーを退職して以来だ。
「お久しぶりです。その節はお世話になりました」
九条さんがまた会釈をしながら言い、隣に立っている田中くんもそれに倣った。
「きみたちは結婚したのかい?」
私の問いに、田中くんが「はい」と答えた。
「結婚してもうすぐ三年になります」
田中くんの穏やかな笑顔に、私は安心した。幸せに満ちた顔だったからだ。もう三年前のような、緊張で固まった表情ではない。笑うことを躊躇するような控えめな笑みではない。
九条さんも出会った頃に比べて顔から険が取れている。クールな印象だったのに、今は人の良さそうな青年だ。もう三十代に入ったのだろうが、彼は若く見えた。
そして、九条さんの肩に座り足をぶらぶらさせている子供――。九条さんの手で膝を押さえつけられていて、それがちょっと不満そうだ。彼が誰の子供かひと目で分かった。田中くんの顔にそっくりだ。
「年末の買い出しかい?」
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