Kujo

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Kujo

 お先に失礼します、と和木に挨拶してから、ジュンは店の奥に位置する従業員専用通路を通り、男用のロッカールームに向かった。途中にある事務室を通り過ぎたとき、そのドアから店長の小野田が出てきた。 「お、田中。ちょうど良い所にいたな。こっち来い」  酒でも飲んでいるのかと思うほど赤ら顔の小野田が、上機嫌な声でジュンに手招きをした。 「え、なんですか」  ジュンは少し身構えた。小野田の態度からして、叱られるわけではなさそうだが、褒められることをした覚えもなかった。今のバイトを始めてまだ二か月経っていない。自分から気を利かせて動くこともできず、部門問わず、先輩店員から命じられるままに雑用をこなす位だった。  促されるまま事務室のなかに入る。四畳程度の狭い部屋には、無理やり押し込んだように二人掛けのソ ファ二脚とテーブル一台が置かれている。向かって奥の上座に座っていたスーツ姿の男が、すっと立ち上がるのが見えた。彼の黒革の靴に、電気ストーブのオレンジ色の光が当たっている。ジュンが視線を上げると、彼と目が合った。幅の狭い二重瞼の双眸。少し冷たい印象を受ける。     
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