Kujo

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 自分なりに出来ることは全てやりきったが、彼が助かるかどうかは判断しようがなかった。助からない可能性のほうが高かったとさえ思う。 「君の応急処置が的確だったから父は助かったんだ。なにかお礼をさせてほしい」  九条の口調が心なしか解れてきた。ふと、彼の顔を見上げる。笑顔を浮かべているせいか、さっきよりも取っつきやすい印象になっている。 「お礼なんていいです。助かったって教えてくれただけで」  また手を振ってお礼を辞退する。なんだか恥ずかしくなって、一刻も早くこの場から去りたくなった。 「じゃあ俺はこれで」  逃げるようにしてドアに向かって歩きだす。 「ちょっと待って」  九条が慌てたように後を追ってくる。  ちょっと面倒になってきて、ジュンは彼の声を無視してドアを開け、そのまま外に出た。ロッカールーム方面に歩こうとすると、ドアを開く音がして、また九条に「待って」と声をかけられる。 「なんですか」  二度も無視したらさすがに失礼だ。ジュンは仕方なく後ろを振り返った。お礼はいらないといったのに、まだ自分に用があるのだろうか。  九条はほっとしたように軽く笑んでから、口を開いた。 「君が父を助けたときの状況を教えてほしいんだ。覚えている範囲でいいから」
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