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One month ago
一か月前――。寒さが本格的になっていた年の瀬。ジュンが働く「スーパーマイン」は、食料を買い込む客で込み合っていた。
その日の正午過ぎ、事務所で弁当を食べ終えたジュンは、休憩時間を本屋で過ごすことに決めていた。冷凍食品、鮮魚、精肉、グローサリー、青果と、出口への順路を、客と買い物かごを避けながら歩いていた。
狭い通路を歩きレジカウンターがあるスペースも通り抜け、出入り口の自動ドアが見えたとき、場違いなほど大きいイビキが聞こえてきた。ドアの中央を避けるようにして、買い物を終えた客も、入って来る客も、両側の戸袋のあたりを身を縮ませて通っている。
それもそのはずだ。起動センサーとして敷かれているマットの上に、初老の男が横たわっていた。イビキの発信元はこの男だとすぐに分かった。男は軽装だった。この寒い日にコートもジャンパーも羽織っておらず、たるんだ薄手のセーターを着ているだけだ。
「いやあね、年末だからって昼からのんだのかしら」
忌々しそうに舌打ちをしながら、中年の主婦らしき女が入店し、ジュンの横を通り過ぎた。
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