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私は死神だ。
毎日人の命を集めている。
「死神」と言っても、全員の元に出向いていちいち命を貰っている訳じゃない。人間の世界に行くのなんて、年に1度あるか無いか。基本的に命が魂となったものを水晶玉に集めている。人を殺す、とかそんな噂は違ってる訳で、人間なんて死ぬ時はちゃんと自分で死ぬ。でっかい鎌なんて必要無いし、元々私に人間を殺す資格なんて無い。
でも、今日は久しぶりに人間の世界に立ち入ることになる。男の子の命が今日来るはずが、まだ来ていないらしい。地面に足をつける。
ゆき、と呼ばれる小さくて冷たいふわふわしてる物体が数え切れない程に足元に積もっている。
男の子に喋りかける。
「君、死にたくないの?」
男の子はそっと顔を上げた。
身体中汚くて、髪はバラバラの長さだし傷もいっぱいあったけど、透き通った赤い瞳だけが綺麗だった。少し口を開くと、
「君は死神さん…かな。僕と同じ目の色。赤目の人は、死神なんだって。お母さんが言ってた。だから、死神だからって捨てられた。」
泣きもしない。感情なんてとっくにどこかに行ってしまったような表情だ。
「そう、私は死神。命を扱う者。」そして、私はもう1度問いかける。
「君は、死にたくないの?そんなに傷だらけで、死神なんて言われて。それでも死にたくないと思えるの?」
男の子は、ゆっくり首を振った。そして、
「今すぐにでも死にたい。あぁ、でもその前に感情が欲しかった。」
語尾を小さくしてそう呟いた。私もそういえば、感情なんて無いかもしれない。笑いもしない。怒る相手もいないから怒らない。悲しい出来事なんて、今までにあったのだろうか。言葉が一つ出る。
「君は、私とよく似てる。」
男の子は表情一つ変えずに、
「そうかもしれないね。似た者同士。いつか、生き変わったら、感情がほしい。喜びたい。怒りたい。誰かと一緒に悲しみたい。」
感情が無くても、どこか悲しそうな顔だった。
「私の…私の命をあげる…。」
自然にそんな言葉が出た。こんな喜怒哀楽の無い命なんて、私だっていらない。
「だから、だから…君が私の分を生きて、喜びを知って、思いっきり笑って、誰かと泣いてきてよ。」
男の子の手を掴む。大きく深呼吸をして、目を開いたら、消えゆく世界が見えた。でも、良かった。
視界が狭くなる中で、未来か、それとも現実か。
君が笑う姿が少しだけ、見えたから。
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