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「いーち、にーい、さーん、し…」
小さな男の子の数え唄が、風呂場いっぱいに響きます。
「…きゅうじゅうく、ひゃく!」
「さぁ、しっかりあったまったね。それじゃあ、そろそろ出ようか」
「うん!」
男の子は勢い良くお湯から出て、小走りに浴室のドアへ向いました。
「走ったら危ないよ」
そういいながら一緒に風呂に入っていたおばあちゃんも、後に続きます。
「しっかり拭かないと風邪ひいちゃうからね」
「うん」
おばあちゃんは、小さな男の子をバスタオルでくるみ、わしゃわしゃと髪と体を拭いてあげました。
男の子は拭いてもらいながら、自分の手をじっと見ていました。
「?どうしたの?」
「手がシワシワ」
「長くお湯に浸かっていたから指がふやけちゃったのよ」
「おばあちゃんと同じだ!」
そう言ってケラケラと笑う男の子を見ながら、「まったく…」と苦笑いしました。
男の子は、湯太(ゆうた)くんと言って今年で小学一年生になりました。
湯太くんの両親は仕事をしていて、帰りが遅く、晩御飯とお風呂はいつも一緒に住んでいるおばあちゃんと一緒でした。
両親に代わって優しく面倒を見てくれるおばあちゃんが湯太くんは大好きでした。
特にお風呂の時間は、あったかい湯船に浸かりながら1日あったことを話し出来る大好きな時間でした。
時には二人で唄を歌ったりしました。声がよく響くので「コンサートみたいだね」と笑いあったりしました。
「はい、これお泊りの用意」
おばあちゃんは玄関先で、カバンを手渡ししました。
「ありがとう」
今日は、湯太くんは友達の翔一くんの家にお泊り会です。
「翔一くんの親御さんに迷惑かけないように、いい子にね」
「うん」
友達の家に初めてのお泊りなので、満面の笑みで頷く姿を、おばあちゃんは少し寂しそうに微笑みながら見つめました。
「どうしたの?」
「湯太くんも、お泊り出来る位、大きくなったんだと思って。おばあちゃん今日は1人で寂しいわ」
「夜には父さんも母さんも帰ってくるよ。それに、明日にはぼくも帰ってくるし」
「そうね...困らせるような事言ってごめんね。気をつけて行ってらっしゃい」
そうして、またいつもの優しい笑顔に戻り、おばあちゃんは湯太くんを送り出しました。
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