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お葬式が終わり、夜になりました。
おばあちゃんのいなくなった家は少し重い空気でした。
「さ、ぼーっとしていても仕方がないわ。湯太、久しぶりにお母さんと入りましょう」
湯太くんは首を横に振りました。
「ぼく、1人ではいる」
「湯太・・・」
湯太くんは重い足取りで1人で浴室に向かいました。
浴室のドアをゆっくり開けると、湯気がフワッと湯太くんを取り囲みました。
少しひるんでしまいましたが、しばらくしてその温かさに慣れてくると、ゆっくり中に入りお湯につかりました。
お湯はちょうど良い温かさで湯太くんを包みました。
すると、やはりおばあちゃんを思い出してしまうのです。
あとで聞いた話で、おばあちゃんはお風呂に入ろうとした時、心筋梗塞になったそうです。
その痛みで倒れこみそのまま長い間いたようで、帰ってきた湯太くんのお母さんが発見した時にはもうほとんど意識のない状態でした。
いつも楽しかったお風呂で、苦しみながら倒れたおばあちゃん。ぼくが、翔一くんに「1人でお風呂に入る」なんて嘘をついたから、神さまが怒ってしまったのかもしれない・・・。湯太くんは誰にも言えずに心の中で苦しんでいました。
「おばあちゃん・・・」
湯太くんは今までこらえていた涙をボロボロと流したその時でした。
『泣かないで』
優しく、懐かしい声がお風呂に響いたのでした。
驚いてあたりをキョロキョロと見渡しましたが、誰もいませんでした。
『湯太くん、ここよ』
すると、声の響くところに湯気が集まり、おばあちゃんの形になったのです!
「おばあちゃん!」
湯太くんはお風呂から出て、おばあちゃんの形をした湯気に駆け寄り抱きつこうとしました。しかし湯気は手をすり抜けてしまい、出来ませんでした。
『湯太くんとちゃんとお別れ出来なかったから、神さまに無理を言って、お別れの時間をもらったの』
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