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「いーんちょは、アナウンサーになりたいのか?」
ある日、神保君に聞かれた。
私が発声や早口言葉を練習している時に入ってきたのだ。
練習が終わるまで、黙って眺めていた。終わった後に質問された。
私は、うーんと頭を傾げた。
「無理かな。ニュースキャスターって、もっと頭が良くて美人な人がなるもんでしょ」
神保君が反論してきた。
「いーんちょ、頭いいじゃん。学校のトップスリーだろ」
私はううん、と言った。
「この街か、札幌でOLになって。週末、結婚式場とかで司会をやれればいいかな」
私が言うと、神保君は驚いたようだった。
「地味……」
率直な感想に、つい私は吹き出した。
「美優は多分、お嫁に行っちゃうし。私がお父さんの面倒見ないと」
神保君は目を見張った。
「お父さんね、偉そうに踏ん反り返ってるけど、なんにも出来ない人で」
なぜか、神保君には言いたくなった。
「私が居ないとタイマー録画も出来ないし、炊飯器をどうやって使うのかも知らない」
「……」
「亡くなったお母さんと約束したんだ。『お父さんと美優の面倒を見る』って」
「いーんちょは、親父さんの事が好きなんだな」
ボソッと言われて、ウンと頷いた。
「俺も」
『煙草を押し付けてくる、鬼のようなお母さんでも、好き』て事なんだろう。
私はもう一度、ウンと頷いた。
「俺も。母さんの事、放っておけない」
神保君の小さな声を聞き取れて良かった。
「ウン」
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