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ぽつりぽつりと零す彼の言葉から、段々と神保君の事がわかってくるようになった。
お父さんは遠洋漁業先の港で駆け落ち。
お母さんの勤務地はススキノで、店に呑みに来る男の人と恋に堕ちては、しょっちゅう駆け落ちしてしまうらしい。
「いっつも泣きながら帰ってくるんだよ。コリねえよな」
それか、男の人を連れ込むと夜中だろうが真冬だろうが、家の外に追い出されるのだという。
彼は家庭内暴力を受けていない時は、無視されていた。無視って言うのかな、放置されていた。
決して言わなかったけれど。
昼休みに居なくなるのは、給食費が払えないから。
授業をサボるのは、社会科見学や修学旅行などのお金がかかる行事や、お腹が空いてたまらない時だった。
その他に私が知ってる事は、空腹を紛らわす為に筋トレしてて、そのガタイの良さに他校の不良から目をつけられて、喧嘩をふっかけられる事くらいだった。
神保君の境遇については、美優に話さなかった。
先生に相談した事もない。
神保君が嫌がったからだけど、時間をかけて話してくれた、とっておきの秘密だからだ。
『誰にも話すんじゃねえぞ。いーんちょだから教えたんだかんな。教えたら』
『教えたら?』
ぶっ殺す、て言われるのはへっちゃらだった。
『……いーんちょを、嫌いになる』
神保君に嫌われるのがイヤだった私は、約束を守った。だから神保君は、誰にも助けて貰えない。
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