8人が本棚に入れています
本棚に追加
「戸山君と神保君。どっちがフコウなんだろう」
私は二人を思い浮かべては、よく考えてみた。
家庭内暴力。
当時、私達はDVという言葉を使った事はなかったが、戸山君の状況を指す言葉だと、みんなは思っていた。
彼はいつも、見える処に怪我をしていた。
お父さんと二人暮らし。
お母さんは夜逃げして、お父さんは飲んだくれ。
給食費を払えなかったが、みんながちょっとずつオカズやパンを分けていたのを、先生は見て見ぬふりをしていた。
戸山君は自分の境遇を隠さないで、周囲の人に喋っていた。同情とか大嫌いだったろうに、フコウを上手に利用していた。
神保君は同情が大っ嫌いだったから、自分の境遇を隠していた。
どちらの境遇が、より酷かったかは、誰にもわからない。
ううん。本人達だって、わかっていなかったんじゃないかな。
私達の世界は、親を中心にして回っている。
理科で習ったみたいに、私達は向日葵みたいに親を見つめながら暮らしている。
私のお父さんてだけで、私にとってお父さんは大事な人だし。
神保君のお母さんてだけで、神保君にとってお母さんは大事な人なのだ。
……それは、双子なのに片っぽを贔屓しちゃう親や、子供の衣食住を保障する義務を放棄している親であっても、だ。
親は子供を嫌いになれたりするけれど、子供は親を嫌いにはなれない。
親がいつかは自分を見てハグしてくれるんじゃないか、て思いながら生きている。
子供は『親があんなに酷いのは、自分が悪いせいではないんだろうか』って思っちゃう生き物なんだ。
「私達、大変だよね」
おどけて、私が言った。神保君は目を白黒させた挙句。
「別に」
なんて言う。
「……そこは、『そうだな』って同意する所だと思うよ」
最初のコメントを投稿しよう!