青春発、朱夏行き列車

帰郷

「ふおおっ。やっぱ、遠いぃ」
　思わず、言っちゃった。
　東京から目的地までは、飛行機を使ってトータルで五時間弱。
　千歳空港からは快速と各停を乗り継いで、あと一時間ちょい。
「道内だと、移動に三～四時間かかるなんて、普通だったんだけど」
　東京だと1時間も移動すれば主要な街に到着しちゃうから、忘れてました。……だいぶ、東京ナイズされたかな、私。

「ここで『四時間強』って言うか、さっきみたいに『五時間弱』って言うかが、ポジティブとネガティブな境目な気がするなぁ」
　あるいは鉄道しか使わなかったり。徒歩（！）で目指すと、とんでもない事になる訳で。そこまで行くと、逆に楽しくなってくる。

　東京の大学に進学してから九年間、いや高校の時から数えるともっとか。十年以上ぶりに帰郷する。父も、小中と一緒に過ごした同級生が居る街。
　なのに我ながら冷たいけれど、逢いたい人は独りだけ。
「神保君。元気でいるかな……」
　でも、逢いたくない。

　車窓から移りゆく景色を眺めていると、心はあっけなくあの頃に戻っていく。