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『町長さんちの双子』。
私と美優は、そう呼ばれていた。
学年には三十人に満たないクラスが二クラス。下手すると幼稚園の頃からの知り合いだって多かった。
その中で、神保君と富山君は小学校の途中からの転校組だった。
神保君は、いわゆる『不良』になるのかな。
煙草を吸って、学校をさぼる事をそう表現するなら。
でも彼がイジメをしてない事を知っている。
授業は出てこないし、出てる間は寝ている。
テストも受けないから、皆からとりわけ先生方からは頭の悪い子だと思われてる。
だけど、私だけは彼がとても頭の良い事を知っている。
それは彼が、テスト用紙をごみ箱に投げてたのを、見つけたからだ。
ゴミ箱の中に落ちる筈のゴミは、ぽとりと床に落ちた。注意するには、私と神保君の距離は遠かった。
『仕方ないなあ』
私は文句を言いながら、彼のゴミを拾った。
くしゃりと丸めた紙には、数式や英単語がびっしりと書いてあった。
気になって拡げてみたら、回答欄に書かれていた答えは全部正解だった。
……そのテストは『学年一の秀才』と呼ばれてる私や美優はおろか、『町始まって以来の秀才』と呼ばれている戸山君ですら百点を取れなかった内容のものだった。
「提出さえしていれば、満点だった筈なのに。なんで出さなかったんだろう」
進学先を判断する為に、先生たちは私達を点数で評価する。
どの高校に進むか、大事な指針になる筈なのに。
ところが、中二の十二月に行われた進路相談の時間に神保君は来なかったらしい。
先生たちも、諦めているようだった。
『頭良いのに、進学しないって事?』
衝撃だった。
お父さんの会社を見て居ればわかる。
高卒より大卒の人。
大卒の中でも、頭のいい人は楽をして(いるように私には見える)、大きな家にゆったりと暮らしている。その子供達も習い事を沢山習ったり、家族で旅行もバンバンしている。
頭の悪い人、というより中卒の人や高卒の人は、頭のいい人達の言いなりに(と私には見える)寒い中暑い中走り回って、小さな家に住んでいる。
私はお給料を沢山貰う為には、頭がいい方がいいんだな、と思った。
まるで、神保君は頭の良さを隠したがっているように思えた。
『どうして?』
……それ以来、神保君が気になりだした。
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