ひとりのおふろ

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「どうしてって……どうしてもなの。私、もうすぐ二年生になるんだよ。お風呂だって一人で入れるもん」  ふむ……と郁美(いくみ)は心の中で唸った。果たしてこれは自立の芽生えなのだろうか? それならば良いが、母親の勘がどうも違うと言っている。 「学校でなにかあったの?」  単刀直入に問うと桃香の目が泳いだ。すぐに『イジメ』の三文字が脳裏に浮かび、胸のあたりがサワサワしたが、それならば帰ってきた時から様子が違いそうなものだ。 「なにもないよ。一人でお風呂に入りたいだけ」  桃香はウソをつく時、なにかをギュッと握る癖がある。小さな手はこの瞬間も懸命に気取られまいとして、シワになるのも構わず、お気に入りのスカートをきつく握りしめていた。  なにか理由があるようだが、ここで問い詰めるのは良くない感じがする。郁美は潔く諦めて「わかった」と組んでいた腕をといた。 「じゃあママが先に入っていいのね? 入浴剤もママが選んじゃうよ?」  たくさんそろえた種類の中からその日の入浴剤を選ぶのは、一番風呂に入る桃香の特権であり、また楽しみでもある。
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