ひとりのおふろ

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 幼いながらも『けっさく』を描いているという自覚があった郁美は、博美先生が教室の中をゆっくり歩いて自分の席までやってきた時、「まぁ」という感嘆の声に喜色満面となり、胸の高鳴りは最高潮に達した。 「郁美さん、すごく良い絵ねぇ! みんなの楽しそうな様子が上手に描けていますよ」  博美先生は厳しい先生で、どちらかといえば叱られることのほうが多かった郁美は、嬉しさの相乗効果で有頂天になった。この絵を見せたら、お母さんもお父さんもきっと喜んでくれるだろう。そう思うと胸が躍った。  翌月、郁美の『けっさく』は、一年生の作品を紹介する廊下の掲示板に貼り出された。雨の日の朝、登校してそれを見た時の喜びは相当なものだったと思う。 『ああ、そうか……そうだった』  モシャモシャと髪を洗っていた手が止まる。忘却の彼方へ追いやっていた記憶がすべてよみがえり、郁美は胸の奥深くで古傷がチクリと痛むのを覚えた。  あの時──貼り出された『けっさく』を誇らしげに見上げていた時、クラスの人気者である麗子が薄ら笑いを浮かべてこう揶揄したのだ。 「やだぁ、郁美ちゃん。まだお母さんと一緒にお風呂に入っているのぉ?」と。
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