ひとりのおふろ

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 それだけならまだ良かったが、日中のいろんなことが心をかき乱していたのだろう。夜は何度も怖い夢を見て目を覚まし、ほとんど眠れなかったことを思い出す。  考えてみると、郁美は母と一緒にお風呂に入ることで、身体の汚れと一緒にその日の気持ちもリセットしていたのだろう。面と向かって言えないようなことも、目をつぶってシャンプーしている時なら不思議と言い出しやすかった。おそらく聞き手である母も同じだっただろう。  はだかになるということは一番無防備な姿になるわけだが、裏を返せばそれ以上弱くなることもないわけで、心情的にも潔くなれる特別な時間だったのかもしれない。 *     *     *  全身を洗った郁美は、思いがけず過去の自分と向き合うこととなり、複雑な心境のまま湯船につかった。一番風呂の熱いお湯がじんわりと全身をあたためてくれる。 「桃香も似たようなことがあったのかなぁ……」  急にあんなことを言い出すなんて、やっぱりおかしい。きっと学校でなにかあったのだ。  う~ん……と考え込んだところに、オモチャのアヒルが漂いながら郁美に寄り添ってきた。このアヒルに桃香はなぜか『ケロちゃん』という名前をつけ、幼稚園の頃から大切にしている。郁美と桃香とケロちゃんの三人でお風呂に入るのが当たり前の日課だったのに。
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