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『吉水くん、文化祭で何やるんだっけ?』
『俺は放送室で校内放送やる予定、って部長のお前が決めたんだろ?』
『吉水くんに逢いたい人は、放送室に放送頼みにくればいいわけね』
日常会話のようなセリフを、通りの良い声でマイクに向かって何の違和感もなく吐き出す。
ここは放送室のスタジオの中。今日は土曜日、来週分の昼の放送の収録中だ。
いつもと変わらないセリフで締め括り三秒程待つと、外のマイクから『OKです』と聞こえてきた。その途端。
「吉水、台本五カ所間違った!」
「そうそう! それに喋るの速いっ!」
と、一緒に収録していた女子が揃って立ち上がり、こちらを指差し抗議しだした。
「高田先輩も倉成先輩も、間違っても気付かれなきゃいいっていつも言ってるじゃないですかー!」
僕は反論してもどうにもならないと知りつつ、愚かにも反抗した。収録の時と全然違うこの立場。何故かってそれは、校内放送のセリフが全て、僕の本来の性格を無視した『台本』だからだ。
うちの高校の放送部は全部で五人。前はもう少しいたんだけど、毎日の校内放送が面倒でやめてしまった。三年生がやめて二年の高田先輩が部長になってから、校内放送がガラッと変わった。決まった内容だけ喋って後は音楽を流すだけだった放送から、ラジオ番組のような台本ありの放送へ。
僕がこの放送に参加するようになったのはつい最近のこと。最初は高田先輩と倉成先輩と二年生で黒一点の嘉藤先輩がやっていた。二ヶ月程前嘉藤先輩が休んだ日、急遽台本の『嘉藤』の部分を『吉水』にだけ変えて僕が台本を読ませられた。一年前まで演劇部だった僕は、見事『嘉藤先輩』を演じてみせた。するとそれが、『嘉藤先輩のセリフを僕の声で読んだこと』が、結構好評だったらしい。それでそのまま続けることになったんだ。
友達に『お前放送出てただろ』と言われても、僕は『二年生の吉水先輩がやってるんだよ』などと大嘘をついていた。普段の僕と違い過ぎて、とても『あれは僕だ』とは言えない。
嘉藤先輩はもともとあまり真面目に部活をやっていた訳ではなかったらしく、最近は休みがちだった。だから放送部は今のところ実質四人で活動していた。
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