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さほど大きくない、扉の筈なのに今はもの凄く大きく、重いものに見える。
けれど、この先に行かねばならない。
だがその前に…、
「初めまして。結城凛と申します。これから貴方様の従者となりますので、よろしくお願い致します。主」
もう一度、自己紹介の言葉を練習する。
何度も何度も練習した言葉なのだから、忘れたり失敗しないと思っていながらも不安で練習しずにはいられなくなる。
これから先自分の命散るまで仕え続ける主となるお方の初めての面会だ。
「……ふぅ。」
一つ深呼吸をすると、ピリッとした雰囲気を纏う。それが、私流のスイッチだ。
そして私は、大きくて重い扉を開けた。
否、開けようとした。
「お前誰だ。」
ビクッ!
後ろからいきなり声を掛けられた。
気配が分からなかった…。
警戒心を露わにしてゆっくりと、後ろを振り返る。
そこにいたのは、金髪碧眼の主となるお方だった。
あぁ…、やってしまった。
「お前は誰だと聞いている。」
脳内では、最初から失敗してしまった為、自己紹介の言葉が流れているのに、言葉が出ない。
「…ッあ、初めまして。結城凛と申します。これから、貴方様の従者となりますので、よろしくお願い致します。」
最初の言葉を噛んでしまった。
一人自己嫌悪に陥りながら、俯く。
失望されただろうか。
そんな考えが頭をよぎる。
唇を無意識にも強く噛む。
「初めまして、か。」
「ぇ?」
「いや、気にしないでくれ。それより、早く中には入れ。」
「宜しいのですか?」
「何を言っている。お前は俺の従者だろう?」
『俺の従者だろう?』という言葉が頭の中で反響する。
私が最も言ってほしかった言葉をサラリと言ってのける主は酷く美しく見えた。
「ッはい!」
これが、私と主の出会い。
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